Interview
まずやってみることから、すべてが始まる。
シンク・アンド・アクトを実践する働き方。
プロノイア・グループ株式会社 代表取締役 モティファイ株式会社 取締役
ピョートル・フェリクス・グジバチさん
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会社創業初期から、代表の伊澤を始めシンク・アンド・アクト(以下T&A)と親交があり、モルガン・スタンレー、グーグルと、名だたる外資系企業の人事としてキャリアを積み、退職後は自ら会社経営を始めたピョートル・フェリクス・グジバチさん(以下ピョートル氏)。  創業間もないT&Aがピョートルさんに営業をかけたことからの10年来のお付き合いですが、自身の会社を始めてようやくT&Aという会社がしていることが本当に理解できたと話します。  ピョートルさんが感じたT&Aとは何か、その先に感じるこれからの日本の働く環境に必要なマインドセットとは何か、これからの働き方のなかで大事なことを伺いました。
クライアントワークではない、パートナー企業としてのボーダレスな関わり方。
ーお二人のお付き合いは会社を作られた初期からということですが、まず現在それぞれがやられていることを教えていただけますか?
伊澤:はい、ピョートルさん、今日はよろしくお願いします。
ピョートル:はい、お願いします。最近は何やってるんですか?前は自転車売ってたりお茶を売ってたり、お会いするたびに違うことされてる気がしますが(笑)。
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伊澤:現在進めているもので、大きくは、いろんな地域や行政、大学だったりの困りごとを集めて、いろんな分野の人を集めて解決して行くということをしています。京都から始めて、そこから世界に広げていければと、事業を自ら引っ張っているところです。 そしてそれを進める中で、様々なジャンルの人が関わって組織作りを行うことがありますから、どうやって心理安全性を確保しながら同じビジョンに向かっていけるかなど、人の育成や組織開発といった事業もしているという感じですね。 今まさに10年目で自分たちの仕事の価値を見直してるところなのですが、ひとつ言えるのは、人事コンサルのみの会社ではないということは自分の中で定義しています。
ピョートル:なるほど、面白いですね。僕は今、モティファイとプロノイア・グループという2つの会社をやっています。モティファイは組織開発に関するテクノロジーの会社で、プロノイアは未来想像企業です。お客さんではなく、パートナー企業として一緒に何かを作っていく新しい形です。 最近の一つの事例だと、山梨にマクヴィスという会社がありまして、彼らはもともと半導体メーカーだったんですが、ワインの製造販売を始めた企業で、そこで一緒にイノベーション事業を起こしています。半導体は今すごくマーケットが縮小しているので、自分たちの持っている機械をベトナムに送って、そこの会社に貸してOEMで半導体を作ってもらっていて、そこで空いた工場で、半導体を作るための清潔な工場と、もともと持っている品質管理や研究のノウハウと合わせて利用し、かっこいいオフィスを作って、いろんな実験をしながらワインを作り始めました。ジャパニーズワイン、あるいは、フランスにシャンパーニュやブルゴーニュとある様に、ヤマナシというブランドを作ろうとしています。 その企業がすごくイノベーションの事例として面白いので、違う会社の役員を連れていって、研修の一環として一緒にマクヴィスのグローバル戦略を考えようみたいなことをしていますね。なので、誰がお客さんで誰がパートナーかという境界がないような形でプロジェクトを行ってます。
伊澤:面白いですね。僕らはいま、京都府のデジタルサイネージのビックデータ活用の事務局を運営していて、プラットフォーマーとしてプロジェクトを進めているのですが、それも一度京都府から切り離し一般社団法人にして、同じように進めています。決められた形でだけ進めるのではなく、そこでまずやりたい人が関われる仕組みを作って、何かあればその法人が責任持ちますと。その方が進みやすいですし、様々なものが入ってくるので面白いですね。今は大阪や京都の会社が多いのですが、東京の会社は技術的に進んでるので、何か協力できることがないかなども考えています。 そういった形で、コンサルだけではなく、自分たちで事業をひねり出していくようなことを増やしていきたいと思ってます。
企業の人事を辞めて自分で会社を始めてみて、やっとT&Aのやっていることが理解できた。
お二人の初めての出会いはどのようなものだったのでしょう。
伊澤:最初は僕と一緒に会社を立ち上げた、杉村(T&A共同創業者、現在代表取締役)が、ピョートルさんのところに営業に行ったんですよね。
ピョートル:そうですね。初めてお会いしたのは、10年前、僕がまだモルガン・スタンレーの人事にいた頃です。もともと部門の組織開発に関わっていて、マネジメント育成をしたり海外へグローバルソーシングといって賃金の安い地域に仕事を振ったりといろいろなことをしてたんですが、ちょうど会社を大きくするタイミングで人事部に移動になって、新卒採用や研修の責任者もすることになったのです。 その時に杉村さんが営業に来ました。杉村さんはもともとモルガン・スタンレーに新卒採用で入った方だったのでそこの信頼はありましたが、始めはどういう人たちなんだろうなと思いましたね。創業したばかりで幼稚園の事業をやろうとしていたとか、元債券トレーダーなのに今は人材育成や研修やってるとか。話を聞いてるうちに、面白い関西人だなと、新卒研修をお願いしようと思ったんです。 ただ、創立したばかりだったので、会社からはこの企業は大丈夫なのか?って言われました(笑)。外資で厳しいベンダー登録のルールがありましたから、なかなか与信は通りませんでしたね。
ー会社の対応としてはもっともだと思いますが、ピョートルさん自身はなぜそこまでT&Aを信頼したんですか?
ピョートル:いや、別に信頼はしてなかったですよ(笑)。でも面白いなと思ったんです。 ちょうどその前の年、モルガン・スタンレーはあるベンダーに研修お願いしていました。それで、実際どんなことをしているのだろうと、僕も無料の2日間のマナー研修を受けに行ったんです。外国人だし受けた方がいいかなとも思って。内容としては、まあ悪くはありませんでした。でも、モルガン・スタンレーの新卒に対するビジネスマナーとしては、なんか浅いなと思ったんです。 僕は率直にいうと、敬語が少し間違ってたっていいし、エレベーターでどこに立つとか、そこまで気にしてないんです。実際今それをあまり普通の会社員がやっているわけではないですし、それをきちっと教えるよりは、これまであまり見たことなかったような面白いお兄さん達にお願いしてみたいなと。
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伊澤:なるほど、そうだったんですね。僕は最初に研修をする前に、もともと幼稚園事業をしようとしてたNPOの名前があったのですが、「Think&Act」という社名にしようと考えてると伝えたら、そっちの方がいいじゃんと言っていただいた覚えがあります。まあそちらの方が与信が通りやすかったのかもしれませんが…。
ピョートル:そのあとモルガン・スタンレーを辞めてグーグルに行った時に、そちらにも来てくれないかとお願いしました。 グーグルのときは、最初はマナー研修なんてやったらグーグルらしさがなくなってしまうだろうと社内で反対されました。結局そこは僕が会社と戦って来てもらうことになったのですが、こちらもちょうど急成長の時期で、全社員が500人くらいのところに新卒が72人入るということになってまして。そして僕はまだ自分のチームがなかったのですが、その新卒の子達がピョートルのチームだよと会社から言われてしまったので、その研修に来てもらって手伝ってもらいました。結果、担当してくれた杉村さんと香水さんが新卒の子達と仲良くなって、半年後にはみんなで飲みいったりしてましたね。
伊澤:そうですね、僕も飲み会だけ行ってました(笑)。今もお付き合いのある方もいますよ。
ー出会いから10年という時間の中で、ピョートルさん自身、企業を渡り歩き、現在では会社を初めて、時間としても立場としても様々変わってきた10年かと思いますが、企業の人事部だったところから伊澤さんと同じ様な立場になられた中で、T&Aに対して印象が変わったところはありますか?
ピョートル:そうですね、僕は独立して、やっと伊澤さん、杉村さんたちのやってることの本質がわかったんです。企業の人事部にいるときは、面白い人たちとは思ってはいましたが、なぜそんなに色々な事業をやってるんだろうと不思議に感じてました。研修もやってるし、お茶も売ってるし、自転車も作ってるし、今ではデジタルサイネージもやってるし。 でも、自分が会社初めて組織開発コンサルでやっていこうとしてたら、1年後には8冊も本を出したし、モティファイというテクノロジーの会社も始めたし、教育系の企業に出資しようとしてるし、色々変なプロジェクトにも関わっていました。気づいたら伊澤さんたちと同じようなことになっていたんです。 結局、起業家や発明家というのは、新しいものを作る人たちなんですよね。そのためには本を読んでMBAをとるとかではなくて、やりながら走りながら学ぶ人たちなんです。誰もやったことがないからやらないではなく、やって前に進むか、かやらないで止まるという差しかない世界。 例えば大学院に行って専門的な勉強した人が全然起業家にならなかったり、逆に大学中退してとりあえずやってみるぜという人が、七転び八起きでどこかにチャンスを見つけたり。お二人はそんな感じに見えるました。僕自身、独立して毎月給料が入らないとこうなるのか、やるしかないな、とかもありましたしね(笑)。 僕は「誰もが自己実現できる社会」を創るために起業しました。起業したばかりの時は自分のやり方で進めようと思ったのですが、それを世界にもたらそうとしている時に、世界が求めるものが変わってきたりもする。自分が得意だと思ってることだけじゃなくて、人から求められたものをやってみると、自分が気づいてなかった強みに気づいたりするんです。例えば僕の場合、外人であることとか、外資の大企業にいたこととか、あとはキャラクターが変だとか。 そうしてだんだんやることが広がっていくことが自分でも楽しいし、それが今の伊澤さんたちなんだろうなと、自分がそうなって感じました。
伊澤:そうなんですね。そう感じてもらえていたとは思ってませんでした。 僕らが今行ってる事業で、京都府の産業廃棄物のIoTを使った回収効率化プロジェクトがあるんです。これはもともとは京都府からの課題から始まったもので、我々は産業廃棄物の専門家でもないし、IoTの専門家でもないんですが、専門的な部分は専門家を連れて来ればいいと。できないと思っても始まらないですから、試行錯誤をしながら現在実証実験をしています。やりながら考えるということを実践している例かなと思いますね。
ダンスはまず、体を動かすことから始まる。ステップを知るのは後でいい。働くことも同じです。
ー働くことに関して、もう少し広いお話を。ピョートルさんはシリコンバレーのグーグル本社への移動を打診されたタイミングで退職されたとのことですが、それは日本の可能性を感じていたからとのことでした。しかし一方で、日本の現状に対しては批判的なことも本やインタビューで様々に書かれています。ピョートルさんは、これから日本はどのように変わっていくことが必要だと思いますか?
ピョートル:僕はもうちょっと、日本は完璧主義から離れることが必要だと思います。 僕が前職の体験で未だに頭に残ってる出来事があります。あるときその会社の同僚たちと、六本木のバーに行ったときのことです。そこはバーカウンターとダンスができる場所があって、じゃあ踊ろうぜというノリになりました。それで、同僚の女の子と踊りに行ったんですが、その子はあんまり動かないんです。なので僕がリードしようと思って適当に踊り始めたら、彼女が聞いたんです。「ピョートル、それなんてダンス?どういうステップなの?」って。驚きました。「え?別に名前も決まったステップもないんだけど?」と思って。彼女はダンスは決まったルールがあって決まったステップがあると思ってたみたいなんです。 ビジネスの世界でもこれは同じで、日本ではこういう手段でやるんですよということを教えないと動かないんですよね。例えば、研修をしていて大きく違うのは、アメリカ人にとりあえずやりなさいというと、みんなまず思い思いにやってみるんですが、日本人はすぐどうやるのかということをとても気にする。今のアクティビティはコーチングを学ぶものなのかフィードバックを学ぶものなのかみたいな。すごく正解を気にするわけです。このやり方だとどんどん個人は潰されます。
伊澤:僕も新卒で銀行に入りましたが、メンタルの面で辞める友達がいたりして、勉強ができても幸せには結びつかないとそこで思いましたね。
ー伊澤さんはまさに、企業の研修などでそこを経てきてしまった人たちと関わることも多いですよね。
伊澤:ええ、例えば、「これをまとめておいてね!」と伝えたら、「まとめるとは何文字から何文字ですか?項目はなんですか?」というふうなやりとりがよくありますね。
ピョートル:どうしても、日本人は完璧主義の教育なので、ここまで達さないと失格だよというような基準があると考えて、それによってリスクを避けてしまうんです。 例えば、英会話などの勉強の習慣を作ることも、日本人はまず完璧な形で始めようとします。まず週3回6時間勉強するとか。でも実際は、最初の1分くらいでできるものが重要です。テキストを取り出して開くとかね。日本人は学習と考えると、どう学べばいいかというところから始まるんですが、そんなことをよりも、とりあえず本を取り出して見てみてください。そこから始まるんです。それをちょっと見れば、自分にとって何が正しい正しくないという感覚がだんだんつかめてくる。そういうマインドセットが必要です。まず悩んでやる環境を整えるのではなく、とりあえず手をつけられることからやってみるということが。
伊澤:日本は6歳からそういうのではないものをやってますから、そこから変えてくのは大変ですよね。
ピョートル:そうですね。それと合わせて、もっと個人の力を育てていく必要があるとも思ってます。「個」の育みに大人も子供も関係ありません。 何になりたい、何ができるということを引き出して自己認識することが重要です。僕ももう43歳ですが、大人でもまだ何かになりたい姿というのはありますし、その行動を起こし始めたらその次の姿が見えるんです。そういう生き方は、とりあえず学校に行って、こういう勉強をしないと、この大学、この会社にいけないという価値観のキャリアパスでは実現しないものですね。そういった空気感は変わってきてはいますが、まだまだ強くある。 でも一方で日本も変わってきているところもあると思ってて、この10年間で特に、僕が独立した後に加速しているように感じます。団体をたちあげる人もいるし、2枚3枚の名刺を持つ人もいます。会社のブランドではなく、自分の名前でやりたいことをやれるようになってる人は増えてます。 僕はこのような個人の力を持った変人を増やしていけば、もっと面白い社会になると信じてます。
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企業の人事から独立して起業したピョートルさん。様々な事業を展開する中で感じた、起業家としてのT&Aと自身の共通点は、自分のできることを決めきらずに、まず期待されたことを考えてやってみることの必要性と面白さでした。完璧な正解を目指すのではなく、やりながら自分の中のやり方を探していくこと。きっとそこに気づけた人が、自分の可能性にも気づけるのかもしれません。